BtoBマーケティングを成功に導くには、施策に着手する前の「戦略設計」が欠かせません。中でも重要なのが、自社の市場におけるポジションを正しく把握し、「どの顧客層に、どのような価値を提供するのか」を明確にすることです。
とはいえ、あらゆる分析手法やフレームワークを完璧に使いこなすのは現実的ではなく、多くの企業にとっては人手や時間といったリソースに限りがあります。そこで本章では、実務にすぐ生かせる視点から、自社の立ち位置とターゲットの明確化に役立つ基本的な考え方をご紹介します。
BtoBマーケティングの基本知識については、こちらの記事をご覧ください。 関連記事 BtoBマーケティングは企業間取引におけるマーケティング活動の総称です。BtoCとの違いを明確にしながら、BtoBマーケティングの基礎について解説します。この記事では、BtoBマーケティングの定義から、BtoCとの違い、特徴、そして関係[…] |
BtoB マーケティング戦略の立案においては、以下の3ステップで考えると整理しやすくなります。
市場・競合分析と自社のポジショニング
BtoB(Business to Business)マーケティングとは、企業間の取引に特化したマーケティング活動のことです。主に法人顧客に対して、製品・サービスの価値を訴求し、購入を促すことが目的です。
市場と競合の分析は、BtoBマーケティング戦略を成功させるための基本です。自社の強み・弱み、機会・脅威を把握すると同時に、競合との比較によって相対的な自社のポジションを明らかにすることができます。これにより、競争優位を確保するための具体的なアクションプランを策定しやすくなります。
市場と競合の分析
市場調査を行う際には、定量分析と定性分析の双方を取り入れることが重要です。
- 定量分析:数値データをもとに、市場規模や成長率、競合企業のシェアなどを客観的に把握します。
- 定性分析:インタビューやアンケート、営業現場からの声を通じて、顧客の意見や消費者のニーズを深く理解します。
競合分析は、市場での競争優位を確保するために欠かせません。競合企業のプロダクトやサービス、価格設定、マーケティング手法を詳細に分析することで、自社が取るべき戦略の方向性が明確になります。
◆市場・競合分析の例
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さらに、顧客ニーズや市場トレンドの変化を把握することも重要です。これにより、顧客が本当に求めている価値や、今後成長が見込まれる領域を見極めることができます。
これらを踏まえてSWOT分析や5フォース分析などのフレームワークを活用すれば、自社の強みや弱み、外部環境からくる機会やリスクを整理し、戦略立案に活かすことができます。
■ 代表的なフレームワーク
- 3C分析:Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の現状や動向から全体像を整理。
顧客(Customer) 市場規模、顧客のニーズ、購買行動、意思決定プロセスなどを把握 競合(Competitor) 競合企業の製品・サービス、市場シェア、強み・弱みなどを分析 自社(Company) 自社の経営資源、製品・サービス、強み・弱みなどを分析 - SWOT分析:内部環境(強み・弱み)×外部環境(機会・脅威)をマトリクスで可視化。
プラス(ポジティブ)要因 マイナス(ネガティブ)要因 内部環境
自社(製品、 サービス、人材 など)強み(Strength)
特化した専門技術や知識を持っている
既存の顧客との信頼関係が強い
ニーズに応じたサービスを提供できる弱み(Weakness)
特定の業界や地域に依存している
人材や資金が不足している
新しい技術に対する適応が遅れている外部環境
業界(市場規模、競合企業、動向 など)機会(Opportunity)
特定の業界や地域に依存している
人材や資金が不足している
新しい技術に対する適応が遅れている脅威(Threat)
競合の増加で価格競争が激化
顧客の予算が縮小し受注が減少
業界に関連する法律や規制の変更ターゲット顧客のセグメンテーションと戦略立案
- VRIO分析:経営資源が競争優位性を生むかをValue(価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣可能性)、Organization(組織)で評価。
- 5フォース分析:業界の競争環境を業界内の競合、新規参入の脅威、代替品の脅威、買い手(顧客)の交渉力、売り手(サプライヤー)の交渉力の5つの要素を分析
これらの分析は一度で完璧を目指すものではなく、「継続的にアップデートする」ことが重要です。最低限の情報から仮説を立て、小さく検証しながら調整していく姿勢が求められます。
ターゲット顧客のセグメンテーションと戦略立案
自社の立ち位置を把握したら、次に「誰に、どんな価値を届けるか」を明確にする必要があります。市場全体を対象にするのではなく、自社の強みを最も活かせる顧客層に絞ることが、戦略成功の鍵を握ります。そのためには、適切なセグメンテーションとターゲティングが欠かせません。
セグメンテーションとターゲティングの基本ステップ
BtoBマーケティングにおいて、セグメンテーションとは「市場を細分化して顧客グループを明確にするプロセス」、ターゲティングとは「その中から優先的にアプローチすべき対象を選ぶプロセス」を指します。
以下のステップを踏むことで、効果的なターゲティングが可能になります。
- 顧客情報の収集・分類
業種、企業規模、地域、売上高、決裁者情報、流入経路などの基本情報をもとに、デモグラフィックでセグメントを分けます。
→ 市場やターゲット顧客の特性を把握する - 収集したデータの分析
収集した情報をもとに、企業の成長段階や収益性(ファーモグラフィック)、Web行動や資料ダウンロード履歴など(ビヘイビア)を分析し、顧客の行動傾向や意思決定プロセスを読み解きます。
CRMや分析ツールを活用すれば、精度と再現性が高まります。
→ 顧客の動きと購買判断の流れを理解する - 最適な戦略の策定・実施
分析結果をもとに、成果が見込めるセグメントを選定し、それぞれに最適なメッセージやプロモーションを設計・実施します。
例えば「展示会経由の問い合わせはCV率が高い」といった傾向があれば、展示会を主軸とした施策を優先的に展開できます。
→ セグメントごとに最適な戦略を展開する
具体的なセグメンテーション手法
セグメントの切り口には、以下のような手法があります。
- デモグラフィック分析:企業の属性(業種、企業規模、所在地<、設立年数)、担当者の属性(役職、部署)など。
- ファーモグラフィック分析:企業の資本金、売上高、収益性、成長フェーズ、資金調達状況など。
- ビヘイビア分析:顧客のWebサイト訪問履歴、メール開封状況、資料ダウンロード、セミナー参加状況など。
これらを組み合わせることで、精度の高いセグメンテーションが可能になります。
◆ターゲティング例
例: 高CV率=「展示会経由での商談」、高単価=「首都圏の装置メーカー」、継続性=「試作品を年4回以上発注する企業」 |
ターゲティングの成功ポイント
効果的なターゲティングを継続するには、以下の視点も重要です。
- 定期的な見直しと柔軟な調整
市場環境や顧客ニーズは常に変化するため、セグメントは定期的に見直す必要があります。 - 営業部門との連携
現場の声や顧客の反応は、マーケティング戦略の微調整に不可欠です。 - ニーズ・課題の深掘り
セグメントごとのインサイトを理解し、それに対応したコンテンツや提案を行うことで、関係構築がより効果的になります。
ABMを活用した戦略設計
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、自社にとって価値の高い特定の企業(アカウント)を選定し、その企業ごとにカスタマイズしたマーケティングや営業活動を展開するアプローチです。
アカウントベースドマーケティング (ABM) | リードベースドマーケティング (LBM) | |
ターゲット | 特定の企業(アカウント) | 幅広い潜在顧客(リード) |
アプローチ | 個別のアカウントにカスタマイズ | 一般的なメッセージを広く配信 |
チームの連携 | マーケティングと営業が密に連携 | マーケティングと営業の連携は比較的緩やか |
ROIの測定 | 特定アカウントからの成果を測定しやすい | リードの数や質で成果を評価 |
ABMでは、特定企業の課題・ニーズ・意思決定構造に応じて、パーソナライズされたコンテンツや提案を届けることで、より深い関心と具体的な反応を引き出し、高い成果につなげることができます。
パーソナライズ施策の考え方と実践方法については、こちらの記事もご覧ください 関連記事 近年、インターネットの普及により、BtoBマーケティングの手法は大きく進化しています。特に、ユーザーのニーズや行動に基づいたパーソナライズは、企業にとって不可欠な要素となっています。従来の一律な広告から、よりターゲットに合わせた個別化された[…] |
ABMの基本ステップ
ABMを実践するには、以下のようなステップを踏むのが一般的です。
- ターゲットアカウントの選定
受注単価の高い企業群や、業界内で影響力のある企業などを選定します。過去の成功事例や営業部門の知見をもとに候補を絞り込みます。 - アカウントごとのリサーチ
選定した企業ごとに、業界課題、経営方針、導入済みソリューションなどの情報を収集し、個別のニーズを把握します。 - コンテンツと施策のカスタマイズ
企業ごとの関心に合わせて、提案資料やウェビナー、事例紹介、メール施策などをパーソナライズします。営業との連携を前提とした施策設計が重要です。 - 成果の可視化と最適化
ABMは施策単体で効果が出るものではなく、営業プロセス全体に波及していく取り組みです。CRMやMAツールを活用し、各アカウントごとのエンゲージメント状況や成果を定期的にモニタリングし、PDCAを回します。
◆ABM施策の例
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ABMの成功ポイント
ABM(アカウントベースドマーケティング)を成功させるには、以下の視点も重要です。
- マーケティング部門と営業部門の連携
マーケティング施策に対して営業が的確にフォローすることで、一貫した顧客体験を提供できます。 - 中長期的な視点での取り組み
ABMは短期成果を期待する施策ではありません。 - 継続的なナーチャリング(育成)
企業ごとの関係性を「深める」活動として捉えることが成功の鍵です。
マーケティングミックスの活用
マーケティング施策を立案・実行する際には、「4P(製品・価格・プロモーション・流通)」の視点を押さえることが重要です。
マーケティングミックスの4P | |
製品(Product) 顧客のニーズを満たす商品やサービス 品質、デザイン、ブランド、機能、パッケージ など →顧客の期待を超える価値を提供する | 価格(Price) 製品やサービスに設定される金額 定価、割引、支払い条件、価格戦略 など →競争力を維持しつつ、利益を最大化する |
プロモーション(Promotion) 製品やサービスを顧客に知らせるための活動 広告、販売促進、PR、パーソナルセリング など →ブランド認知度を高め、購買を促進する | 流通(Place) 製品が顧客に届くための流通経路 チャネル(直販、代理店、小売店)、流通網、立地 など →目標顧客に効率的に製品を提供する |
まず「製品(Product)」については、単なるモノの提供ではなく、顧客の課題をどう解決するかに焦点を当てます。BtoB市場では、業界特有のニーズに対応したカスタマイズ性や、フィードバックを反映した継続的な製品改善が求められます。
例えば、製造業向けに特化したソフトウェアを提供する企業であれば、現場のワークフローに最適化されたUI/UXや、特定機能のカスタム対応などが製品戦略の肝になります。
次に「価格(Price)」については、単にコストではなく、顧客に提供する価値や期待されるROI(投資収益率)に見合った設定が求められます。プレミアム価格やボリュームディスカウント、サブスクリプションモデルの導入など、長期的な関係性と価値提供を前提にした価格設計が有効です。
「プロモーション(Promotion)」については、SEOやコンテンツマーケティング、SNS広告、ウェビナーなどのオンライン施策と、展示会や業界紙への寄稿といったオフライン施策の組み合わせが鍵となります。特にBtoBでは、ターゲット企業の役職者へ直接リーチできるLinkedInやFacebook広告が成果を挙げやすい傾向があります。
最後の「流通(Place)」については、製品・サービスを顧客に届けるためのチャネル設計が重要です。モノタロウやミスミ、オレンジブックに代表されるECチャネルの活用、販売パートナーとの連携、自社営業体制の最適化などが挙げられます。加えて、顧客情報をCRMで一元管理し、対応の履歴を見える化することで、継続的な関係構築が可能になります。
BtoBマーケティングでは、これらの4つの要素を適切に組み合わせて、ターゲット顧客のニーズに合った戦略を立てることが、市場での競争優位性を確保する鍵となります。
◆マーケティングミックスの戦略例
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実行体制と効果検証
施策を動かす体制づくりも重要です。マーケティングチームが獲得したリードを、どのタイミングで営業に渡すのか、その基準は何か、といった「連携のルール」を決めてフォローの質を高めましょう。
また、施策ごとの効果測定も欠かせません。たとえば広告であればクリック率やCVR、展示会であれば名刺獲得数や商談化率、SNSであればリーチやエンゲージメントなど、KPIを定めたうえで成果を可視化し、改善につなげていく必要があります。マーケティングは一度打ったら終わりではなく、常に「PDCA(計画・実行・評価・改善)」を回すサイクルが求めらます。
まとめ
BtoBマーケティングは、単なる広告活動ではなく、「誰に、どんな価値を、どう届けるか」を一貫して設計・実行する戦略的プロセスです。貴社に適したフレームワークを使い、分析とマーケティング戦略の立案を行いましょう。
続くステップとして、「リード生成(リードジェネレーション)」と「CAC(顧客獲得コスト)」の関連性についての解説は、こちらの記事をご覧ください。 関連記事 BtoBマーケティングを成功に導くには、施策に着手する前の「戦略設計」が欠かせません。中でも重要なのが、自社の市場におけるポジションを正しく把握し、「どの顧客層に、どのような価値を提供するのか」を明確にすることです。とはいえ、あらゆる分[…] |
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